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【慶應女子高攻略】数学の模試作問者が「視点・考え方」を語ります(問題付き)

インタビューオリジナル問題

作問者の視点と考え方を知ることは、入試で狙われるポイントや解法の理解に役立ちます。

そこで、今回はSAPIX公開模試の過去問題(数学)から、慶應女子高の入試本番を想定したとっておきの一題を厳選。

作問者自らが、「なぜこの問題を出したのか」「難度をどう調整したのか」「受験生がどのように解くことを想定したのか」といった視点・考え方を紹介します。

難関高校を目指す受験生や、数学の実力を高めたい中学生はぜひ、今後の学習のヒントにしてください。

①まずは問題にチャレンジしてみよう(目標解答時間:12分)

問題〈テーマ:円〉

下の図は,AB>AC の△ABCと,3点A,B,Cを通る円である。BCの延長とAを通る円の接線との交点をDとし,DA=DEとなる点Eを辺BD上にとる。また,直線AEと円との交点のうち,Aとは異なる方をFとする。AE=4√5,BE=10,FE=3√5であるとき,次の問いに答えなさい。

  1. ECの長さを求めなさい。
  2. CDの長さを求めなさい。
  3. AB:ACを求めなさい。
  4. FCの長さを求めなさい。

  • 受験者による各設問の正答率:[1]89%、[2]32.9%、[3]28%、[4]0.8%
  • 慶應女子高入試プレ〈現 学校別サピックスオープン(慶應女子高)〉より

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②作問者の視点・考え方を知ろう

【作問者】福田(SAPIX中学部 数学科)

青木 まず出題の狙いを聞かせてください。

福田 慶應女子高の出題形式はある程度決まっています。小問集合や文章題、整数なども出ますが、よく出題されるものの一つに平面図形があります。中でも出題率が非常に高いのが、円に関する問題だったので目を付けました。

青木 難度はいかがでしょうか。

福田 慶應女子高の円の問題は、難問と呼ばれるレベルになることはほとんどありません。複雑な計算が必要になることは稀で、基本的な知識の組み合わせで解ける問題が多いからです。模試もそのレベルに合わせて作問しました。

ただし、受験者の中で点差をつけたかったため、気付きの必要性がある事柄を入れています。例えば、掲載した図は慶應女子高の入試問題にありがちな「少々ゆがんだ、不正確な」ものです。その見た目に惑わされず、正確な情報を利用した図を自分でかき直して解き進められるかどうかを試すようにしました。

青木 確かに、この見た目に紛らわしい図のせいで、直線ABを円の直径と間違えたり、∠ACDを90度と思い込んだりするなど、勘違いしたまま計算してしまう受験生も出てきそうですね。こうした問題はどのように対策すればよいのでしょうか。

福田 まずは気付いた点を図に書き込んでいくことが大切です。長さなどを記入していくうちに何だかおかしいなと感じたら、自分で正確な図をかき直してみるのです。普段から図をかく習慣が付いていれば、「90度に見えるが、実は違うのではないか」などの違和感に気付く確率が上がります。慶應女子高に限らず、図が不正確な問題があるため、「自分で図をかきなさい」という指導は普段から心掛けています。

【聞き手】青木(SAPIX中学部 数学科教科長)

青木 この大問の正答率はだいたい予想通りでしたか。

福田 基本性質を使えば解ける問題なので、難しくしたつもりはありませんでしたが、受験者は予想以上に苦戦したようです。

特に、最後の問題[4]は正答率20%を想定して作問しましたが、図に仕掛けられたミスリードの誘いに乗ってしまった受験者が多く、実際には0.8%とはるかに下回りました。他の問題の正答率は[1]が89%、[2]が32.9%、[3]が28%です。円と相似の基本問題である[2]は想定外の低さでした。

また、[1]と[2]は単純に「方べきの定理」だけを使って解くこともできますが、そういう人は[3]でつまずきがちでした。ただし、「『方べきの定理』は『相似』から導かれるもの」だという基本に立ち返ることができれば、この比も求められるはずです。

[4]は[3]の答えから「角の二等分線」に気が付き、円と角の二等分線を組み合わせると「特殊な『相似』」が作られるという考えにたどり着ければ解けます。ただし、先ほど触れたように、特に[4]は与えられた不正確な図をそのまま使うことでミスをするケースが見られました。

青木 多くの生徒が練習してきたはずの問題なのに、出題方法が少し変わるだけで難しく見えてしまいますね。ところで、この問題を作るまでにどんな苦労がありましたか。

福田 苦労というほどではありませんが、悩んだのは最後の問題をどのような扱いにするかということです。最初、[4]は「△BFCの面積」を解く問題にしていました。しかし、「最初から最後まで『相似』で通した方がよいのではないか」と決め、長さを聞く問題に変えました。とはいえ、別解では面積を出すときと同じアプローチでも解けるようにしています。

青木 他の模試も含め、題材はどんなことをきっかけに選ぶのでしょうか。

福田 授業中に生徒が「私の想定よりも解けなかった」と感じた問題を頭に入れておきます。「これは記憶に残りづらいのか」「この使い方になると戸惑うのか」など、解きづらい理由の仮説を立て、作問の候補として貯めておくのです。

実は、最後の問題を入れたきっかけは、この問い方をすると、簡単な図形的な性質に気づかない生徒が多かったことでした。

青木 福田先生の問題は、解いていくうちに「これに気付いてね」というメッセージが割と伝わりやすいように感じます。

福田 そう願ってはいましたが……。受験者は、何のために[3]の問題があるのかを考えて、[4]を解いてほしかったですね。

青木 目標の解答時間を教えていただけますか。

福田 入試本番は大問五つで60分間です。この問題は易しい方なので、本番では10分強で終わらせてほしいですね。長くても15分以内で解いてほしいところです。

青木 ありがとうございました。