【筑駒高攻略】数学の模試作問者が「視点・考え方」を語ります(問題付き)
インタビューオリジナル問題
作問者の視点と考え方を知ることは、入試で狙われるポイントや解法の理解に役立ちます。
そこで、今回はSAPIX公開模試の過去問題(数学)から、筑駒高(筑波大学附属駒場高校)の入試本番を想定したとっておきの一題を厳選。
作問者自らが、「なぜこの問題を出したのか」「難度をどう調整したのか」「受験生がどのように解くことを想定したのか」といった視点・考え方を紹介します。
難関高校を目指す受験生や、数学の実力を高めたい中学生はぜひ、今後の学習のヒントにしてください。
①まずは問題にチャレンジしてみよう(目標解答時間:12分)
問題〈テーマ:整数〉
nを自然数として, 1 n で表される有限小数(ただし, 1 1 は含まないものとする)について,次の問いに答えなさい。
(1)小数第2位でちょうど終わる有限小数となるnをすべて書きなさい。
(2)小数第3位までで終わる有限小数をすべて足すといくつになりますか。
(3)50以下のnのうち,有限小数となる 1 n のすべての積である新たな有限小数 1 m を作ります。次の問いに答えなさい。
(ア)mは一の位から0がいくつか連続して並ぶ整数です。0が何個連続して並びますか。
(イ)有限小数 1 m は小数第何位でちょうど終わりますか。
- 筑駒高入試プレ〈現 学校別サピックスオープン(筑駒高)〉より
②作問者の視点・考え方を知ろう

【作問者】髙橋(SAPIX中学部 数学科副教科長 )
青木 この問題を作った狙いを教えてください。
髙橋 ここ数年、筑駒高の出題傾向は変わらず、大問2で整数が出題されています。整数は筑駒高の入試の「顔」ともいえる存在なので、本番の入試に負けないクオリティの問題を出したいと考えました。
そこで、過去10~20年ほどの模試の出題テーマを確認したところ、過去の筑駒高入試プレ〈現 学校別サピックスオープン(筑駒高)〉で、循環小数の問題を見つけたのです。循環小数の問題があるならば、有限小数の問題もあり得ると考え、テーマにしました。
青木 それまでに、有限小数が高校入試に出題されたことはありましたか。
髙橋 当時、私が調べた範囲ではほとんどありませんでした。しかし、約数に関する問題を別の高校の入試で見つけて、「これを掘り下げたら面白いのでは」と思ったことが背中を押してくれました。
青木 問題の難度はどのように調整しましたか。
髙橋 難しすぎる問題にならないように心掛けました。類題を解いたことのある受験生はほとんどいないと思いますが、問題を見て「何をすればよいのか分からない」と感じた受験生も、「まずはしらみつぶしに調べてみよう」と手は動かせるだろうと想定しました。解く過程で使うのは整数の基礎知識です。「約数」や「因数」といった整数の典型問題が土台になっています。

【聞き手】青木(SAPIX中学部 数学科教科長)
青木 こうした整数の問題を初見で解くためには、どう対策すれば良いのでしょうか。
髙橋 まずは土台となる基礎知識をしっかり身に付けること。その上で、「見たことのない問題」の中に隠れている基本性質を見抜く練習を数多く積むことで、徐々に太刀打ちできるようになります。
また、いきなり「どう計算しよう」と考えるより、「まずは調べてみよう」と手を動かすのが大事なアプローチです。
青木 どんなことをきっかけに問題の題材選びをしていますか。
髙橋 生徒とのやりとりで気付いた点を反映させることもあれば、最初にテーマを決めて、そこから設問内容をじっくり考えることもあります。数学的に有名な構造をテーマに組み込み、「実はこんな数学的背景があるんだよ」といった学びにつなげることも少なくありません。
青木 確かに、実は有名な性質が隠れていて、そこに着地するように作問されていることは実際の入試問題でもよくありますね。今回の問題を作るのに当たり、苦労はありましたか。
髙橋 まずテーマを決め、聞きたいことを考えるところから始めましたが、有限小数には「どんな性質があるか」「小数第何位で終わる場合、何を、どう問うべきか」など、結構考えました。
これは2021年の模試ですが、2022年の入試に向けて作った問題だったので、当時は「2022という数字をうまく組み込めないか」と迷っていたようです。メモには思考錯誤した数字の羅列がいっぱい残っていました。
また、「受験者が手を動かせるように」といっても、ただ調べるだけで終わってしまうような問題は筑駒高らしくないので、「視点を変え、発想を変えるだけで、簡単に解ける」という問題につなげることにも苦労しました。
青木 実際に採点してみて、いかがでしたか。
髙橋 特に作問に苦労した“(2)小数第3位までで終わる有限小数をすべて足すといくつになりますか。”は、「全部調べて、出てきた数字を単純に足している」という答案もあれば、私が狙いとしていた「『逆数の約数の総和』に気付き、きちんと使って解いている」答案もあったので、こちらの予想通りの展開になって安心しました。
青木 筑駒高に受かるのは、45分という制限時間の中、そんな気付きのあった生徒なのかもしれません。大問は四つなので、単純計算では大問一つ当たり11~12分という短さで解くことになります。じっくり考える余裕はないので、短時間で出題者の狙いに気付ける受験生はレベルが高いと思います。最後に、作問に関するこぼれ話があればお願いします。
髙橋 数学の模試は1校につき2~3人の講師たちが毎年担当校を変え、分析を繰り返しながら作っています。問題ができると、模試討議(※)にかけて活発に意見を交わします。こうした背景があり、数学の問題は約1年前から練るケースがほとんどです。
この問題は2021年11月の筑駒高入試プレに出すために1年以上前から作っていました。しかし2021年2月の開成高の入試で有限小数がテーマの問題が出て、先を越されてしまいました。苦労して作った問題だけに、正直ショックでした(笑)。
青木 本番の入試を想定した模試を作っていると稀に起こる悲劇ですね(笑)。本日はありがとうございました。
- 模試討議:教科ごとに複数の講師が集まり、模試の内容について検討・議論すること。