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【慶應義塾高×早大学院】校長・学院長先生による特別座談会

インタビュー

2024年6月22日、慶應義塾高等学校校長の阿久澤武史先生と早稲田大学高等学院学院長の武沢護先生をお招きして、SAPIX主催学校説明会を開催し、終了後にはSAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎をコーディネーターに座談会を行いました。ここでは座談会の内容を抄録します。

慶應義塾高校と早大学院 両校の校舎の歴史と意義

髙宮 初めに、一貫教育校である慶應義塾高等学校(塾高)と早稲田大学高等学院(早大学院)の共通点についてお聞かせください。両校とも広大で緑豊かなキャンパスの中にたくさんの施設を構えていますが、まずは校舎で自慢できるところについて教えていただけますか。ちなみに、塾高出身の私は高3の時、阿久澤先生に国語を教わっていました。

阿久澤 そうですね。髙宮さんが真剣なまなざしで授業に臨んでいた姿を今でも覚えています。教え子だった髙宮さんと、このように語り合えることをうれしく思います。

さて、本校は慶應義塾日吉キャンパスの一角にあります。まず、「古くから変わらずにあるもの」として紹介したいのが、本校の 学舎(まなびや) である第一校舎です。日吉キャンパスの開設当初に建設された築90年の重厚な校舎で、旧制の大学予科の授業がここで行われていました。ギリシャ神殿風の外観が特徴的です。

また、13万坪に及ぶ広大なキャンパスには「 蝮谷(まむしだに) 」と呼ばれる谷や森が広がり、自然を身近に感じることができます。大学と同じキャンパスにあるため、大学生と交流しやすいのもメリットの一つです。

髙宮 日吉キャンパスはGHQに接収されるなど、激動の歴史がありますよね。

阿久澤 戦時中、校舎は海軍に使われていました。地上や地下には戦争遺跡があり、今では教育資源として活用されています。

髙宮 日吉キャンパスは入り口からイチョウ並木の緩やかな坂道が続いていますが、早大学院も長いケヤキ並木がシンボルとなっています。

武沢 はい。西武新宿線の上石神井駅から数分の本校に足を一歩踏み入れると、しばらく続くケヤキ並木があります。私はそこを「参道」と名付けています。明治神宮などの神社の参道を歩き、玉砂利を踏み締める音を聞いていると、だんだんと清らかな気持ちになりますよね。本校の生徒も同様に、上石神井駅から新青梅街道の喧騒を越え、このケヤキ並木を歩くことでマインド・リセットされて、勉強に励むことができるようになってほしいと思っています。この参道は「早稲田の一貫教育の入り口」の象徴にもなっています。

髙宮 先ほどの説明会で、早大学院の校舎は遮音性や構造的合理性のある緻密な設計がなされていると伺いました。現在、新たな工事も始まっているそうですが、建築には卒業生も関わっているのでしょうか。

武沢 これから第三期工事が行われますが、学院の中学部を新設した第一期工事では、本校出身で早稲田大学建築学科出身の卒業生が設計に携わっていました。第二期以降の設計会社は変わりましたが、本校では基本的に信頼を寄せている早稲田大学建築学科出身の卒業生に設計を依頼しています。キャンパスで自慢できるのは13万冊を所蔵する図書館、遮音性の高い1500人収容の講堂、広大な人工芝グラウンドなどです。

大学受験にとらわれず 幅広く豊かな学びに触れる

髙宮 両校ともに内部進学率が高い点も共通していますね。そこで、大学受験にとらわれないことのメリットを伺います。まず、早大学院では何年も前から始めていたという「情報」の授業についてお聞かせください。

武沢 私は数学科と情報科を教えています。本校では高校のカリキュラムとして2003年に「情報」の授業を始めました。その頃の「情報」はどちらかというと全てのベースとなるリテラシーを学ぶような教科でした。例えば、「読み・書き・そろばん」+「プログラミング」というようなベーシックな学びです。その一方で、「情報」の授業を通じてさまざまなフィールドワークを実施し、プレゼンテーションやディベートも行ってきました。

髙宮 2025年度からは大学入学共通テストや一部の大学入試に、プログラミングを含む「情報Ⅰ」が導入されることになりました。それを受け、2022年度からは学習指導要領に基づき、「情報Ⅰ」が高校の必修教科として追加されたので、大学入試を意識した学習をする学校が多いようです。早大学院では大学や社会で求められるスキルを身に付けられるということでしょうか。

武沢 そうですね。本校では大学入試がない分、教育理念に沿った学びや、大学で研究することを意識した学習、プログラミングやプレゼンテーションのような授業も実施できます。これは大きなアドバンテージといえます。

また、本校では文系・理系関係なく、全員が統計学もしっかり学びます。統計学の授業の内容は高校の卒業論文や、その先を見据えた大学のレポートなどにも生かすことができるのではないかと考えています。本校の出身者が大学院に進学する割合は非常に高く、大学院側からも「研究リテラシーのある卒業生が多い」とよくお褒めの言葉をいただきます。

 

髙宮 続いて、大学受験に縛られないメリットについて、阿久澤先生にも伺います。2023年12月のニュースで「授業中、石を割ったら新種化石 30万年前、コガネムシの仲間―慶應の教諭」という見出しの記事を見たのですが、これは塾高の理科の授業の話ですよね。ぜひ詳しく聞かせてください。

阿久澤 2022年9月に行われた本校の地学の授業中に発見されました。「石を割って、化石を発見してみよう」という授業の中で、生徒が教材の石を割ったところ、化石が見つかりました。化石はコガネムシの仲間のセンチコガネ科の新種でした。授業中にそういった新種の化石が発見されることは、世界レベルでも非常に珍しいことだそうです。

その石は専門家の手によって1年以上かけて本格的に調べられました。こうした専門家につなげる教員から、世界的な学術誌に発表できる教員までそろっているのは慶應だからこそだと思っています。化石は発見した生徒の「ヤタガイ」という名前を入れて、「ヤタガイツノセンチコガネ」(和名)と名付けられました。本校の理科は、物理・化学・生物・地学の4分野を必ず学びます。どの分野も実験の授業が多い点が大きな特徴です。

髙宮 この他にも、高校在学中に公認会計士の資格を取得した生徒もいますね。

阿久澤 本校は生徒が将来のグローバルリーダーにふさわしい人間に成長することを願い、2018年から「日吉協育モデル―正統と異端の協育」という新しい教育を実践しています。その取り組みの一つとして始めたのが「協育プログラム」で、大学や企業などからの協力を得て、幅広い分野にわたる講座を開いています。その中の一部として、同窓会の協力により、卒業生主導で行われているのが「保護者対象 公認会計士特別講演プログラム」や「公認会計士入門講座」です。公認会計士の資格を取得したその生徒は部活と勉強を両立させていました。

大学受験がない環境が、自分の人生の次のステージや目標を早い段階から見つけることにつながるのではないかと、私は考えています。本校では社会とつながり、社会を切り開いていく手段として、こうしたプログラムを通じて、生徒にたくさんの種をまいていきたいと思っています。

部活動に本格的に打ち込める環境 第二外国語で視野を一層広げる

髙宮 次は課外活動についてです。東京六大学野球やアメフトなどで早慶戦といわれる試合が数多く開催されますが、塾高では「慶早戦」と呼び、「とにかく絶対に早稲田に勝つ」という空気が漂っていました。

武沢 本校でもなぜか「慶應だけには負けられない」と、いつも生徒が意気込んでいます。

阿久澤 良きライバルがいるのは幸せなことですよね。

髙宮 両校とも部活動に打ち込みやすい環境が整っていると思います。それぞれのクラブについて詳しく教えていただけますか。

阿久澤 本校には70を超えるクラブがあり、加入率は85%を超えます。2023年は野球部が夏の甲子園で優勝して話題になりましたが、他にも全国・関東・県大会レベルで優勝を狙えるクラブがたくさんあります。勉強に没頭する生徒がいる一方で、大きな大会を目指して、真剣に部活に取り組む生徒がいるのも塾高の良さです。とはいえ、部員は勝利至上主義というわけでもなく、みんな楽しみながら活動しています。

髙宮 体育会のクラブは44もあると聞きました。それぞれのクラブには指導者がいますよね。

阿久澤 大学の体育会出身で、第一線で活躍した方やプロのコーチが指導するクラブもあります。そういった環境の中で、自分のスキルを伸ばせるのは大きなメリットだと思います。

武沢 本校にもクラブの施設はいくつもありますが、設備のより整った早稲田大学の施設も利用しています。例えば、野球部、サッカー部、ホッケー部は広大な早稲田大学東伏見キャンパス、ラグビー部は早稲田大学上井草グラウンドなどに行って活動しています。

指導者も、サッカー部はJリーグに関連したコーチングスタッフ、ラグビー部はかつて早稲田大学のラグビー部監督を務めた方もコーチとして迎えています。大学受験がなく、クラブ活動に本格的に打ち込めるからこそ、人間関係も熟成するのではないでしょうか。

髙宮 次はグローバル教育・外国語教育についてお尋ねします。私は高校時代、第二外国語でドイツ語を選択し、大変苦労した記憶があるのですが、両校とも外国語教育を含めてグローバル教育が盛んに行われています。どんな意義があるのか、またどんな活動をしているのか教えてください。

武沢 高1より第二外国語を選択必修とし、ドイツ語、フランス語、中国語、ロシア語から選んで学びます。中学部からの内部進学の場合、3年次にこの4カ国語を一通り学習した上での選択が可能です。人気があるのは中国語です。しかし、どの言語を選んだ生徒も「どんな国か」「この国で何が起こっているのか」などと、国そのものの理解を深め、楽しみながら学習しています。

高校時代に第二外国語を学んだ経験は大学進学後も生かせます。早稲田大学の海外協定校は世界中に点在していますが、英語圏への留学は非常に競争率が高い。しかし、本校の卒業生は高校で第二外国語に触れていることから、ドイツやフランス、中国、ロシアも積極的に選択肢に入れています。さまざまな語学圏の文化や歴史を知り、興味を持つことが大切だと考えています。

阿久澤 語学を学ぶことは、未知の学問への扉を開くことも意味します。その言語の世界があり、文化があるので、学んでいくうちに視野も広がっていきます。早大学院と同じく、本校でも非常に多く選択されているのは中国語です。卒業生と再会し、さまざまな話をすると、実に多くの卒業生がビジネスで中国に行っていることが分かります。

国際交流にも力を注いでいます。本校にはアメリカの学校と連携する2週間単位の「短期交換留学プログラム」、イギリスにターム(学期)留学する「中期派遣留学プログラム」、慶應義塾全体で実施する長期留学プログラム「慶應義塾一貫教育校派遣留学制度」など、さまざまな留学制度があります。アメリカのボーディングスクールやイギリスのパブリックスクールに留学するプログラムを体験し、さまざまな生活・文化に触れてほしいと願っています。

どの教科も手を抜かずに取り組み 豊かな教養を培えば、医学部への道も

髙宮 次のテーマは「活躍する卒業生」です。ただし、今回は医学の分野に限定して伺います。医学部に進学する生徒はどのようなタイプが多いのでしょうか。

阿久澤 とにかく優秀です。この「優秀」というのは5教科に限ったことではありません。体育や芸術教科など、全ての教科にわたります。満遍なく努力をしている生徒が医学部に進学しています。

慶應の医学部の教授からは、「骨太の学生」に来てほしいとよく言われています。大学受験に特化した進学校で、勉強漬けの学校生活を送った生徒よりも、高校時代に勉強にも部活動にも精を出したような学生が求められているのです。本校の野球部やラグビー部の出身者が医学部に進学し、大学入学後も選手として活躍している卒業生もいます。

髙宮 医学部に進学するために、美術や体育も手を抜かずに頑張ることが大切なのですね。早大学院はいかがでしょうか。

武沢 早稲田が明治時代以来、後れを取っているのが医学の分野でした。しかし、2009年に日本医科大学と早稲田大学の理学・工学部が提携することになり、早稲田大学の附属・系属校から日本医科大学に指定校推薦で入学できる制度も創設されました。推薦枠の人数は、本校から2人、本庄高等学院から2人、早稲田実業から2人の計6人です。日本医科大学はこれまで全ての学生を一般選抜で募集していたため、初めて指定校推薦に踏み切ったことになります。

早稲田大学の附属・系属校に白羽の矢が立った理由を日本医科大学学長の弦間昭彦先生に尋ねたことがあります。受験勉強に没頭して入学した学生も非常に優秀ですが、彼らとは違うタイプの、全人格的な教育や、文理融合したオールマイティーな教育を受けてきた、早稲田の附属・系属校の生徒に期待したとのことでした。

これまでに日本医科大学に推薦入学したのは、中学部から理科部に入り、生物が好きで学会などで発表を行ってきた生徒や、ヨット部のキャプテンをした生徒など、好きなことに熱中して力を注いできた生徒ばかりでした。優秀な生徒が自分の興味のあることに打ち込んで得た結果だと思っています。これは受験に特化した進学校とは異なる面だと考えています。

髙宮 次に男子校の魅力についてお聞かせください。

武沢 10代の多感な時期であることから、異性の目を気にする生徒も少なくないのですが、男子しかいないため、自由に振る舞えます。例えば、合唱コンクールなどでは女子がいると声が小さくなる男子もいるかと思います。しかし、男子校の場合、大きな声で伸び伸びと歌っている姿が見られます。

阿久澤 同じようなことですが、男子校という環境にあえて身を置くことで、女子の目を意識せず、自分の好きなことに没頭しやすい点ですね。球技大会なども自然体で盛り上がっています。

髙宮 最後に、受験生へのメッセージをお願いします。

阿久澤 塾高も早大学院も良い学校です。自分が塾高や早大学院で「何を学び、どんな人生を送って、どんなキャリアを築きたいのか」をしっかり見つめながら、志望校を選んでください。両校とも勉強や課外活動に没頭できる環境が整っているので、安心して通っていただけます。

武沢 志望校を選ぶ際は各校に実際に足を運んで、雰囲気を味わってから決めてください。そして、早大学院や塾高に入学したら、自分から問題意識を持ち、自分で解決するという資質を身に付けてください。

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