【教科長座談会】難関国公私立高校 2025年入試を振り返って
インタビュー入試分析
SAPIX中学部では、国立大附属高と難関私立高、早慶高、都県立高の入試が終わった段階で各教科の教科長が集まり、今年の入試の出題傾向などについて振り返る座談会を開きました。
2025年入試ではどんな傾向が見られたのでしょうか。
来年以降の受験生はそれを踏まえてどんな学習をすればよいのでしょうか。
座談会の概要についてまとめました。
- この座談会は2025年2月26日(水)に実施されました。
開成高・筑駒高・国立大附高
開成は英語の物語文と社会が難化
筑駒は今年も社会が高得点勝負に
磯金(英語) 開成高の英語の平均点を見ると、今年はこの10年間で最上級に難しい年だったと思います。その要因は、読みにくい題材が扱われた大問1の長文問題(物語文)が極端に難しかったことです。
ただ、全体の難度はそれほど高くなく、昨年は変化球的だった発音問題もオーソドックスに戻り、文法問題もリスニングも標準レベルでした。
それでも平均点が低くなった原因は、大問1の難しさに加え、入試問題全体をどう解き進めるか、いかにスピード感を持って解くかという部分への高度な対応力も併せて必要だったからと考えています。

英語/磯金 俊一
筑駒高の傾向は例年通りで、文章の行間を読むという筑駒らしさは健在でした。また、今年は自由英作文で、Equality「平等」、Equity「公平」、Reality「現実」の違いを表現したイラストが示され、受験生自身の考えとその理由を述べる問題が出ました。
他の国立大附属高で新傾向が見られたのは学芸大附高です。大問4が、本文の内容を表す英文の書き出しに続く選択肢を選ぶというものでした。
今野(国語) 開成高の国語は2020年以降、複数文章を複合的に読解する問題を取り入れた2021年を除いて基本的に安定し、受験者平均点も落ち着いています。
その中で今年のトピックは、ここ数年設けてきた一部の記述問題の字数制限をなくしたことで、それだけでも受験生は解答しやすくなったはずです。
加えて今年は、大問2の随筆文がB5版1ページ程度という異例の短さだったため、平均点はもっと上がるかと思われましたが、昨年易化した大問3が通常の難度の古文に戻ったこともあり、平均点は予想を下回りました。
筑駒高は昨年から記述問題の解答欄が行分けされたため、際限なく書くことはできなくなりました。また、最近の傾向は大問2が難しいことで、昨年は詩人の最果タヒさん、今年はシンガーソングライターの折坂悠太さんの随筆文が出題されました。
いずれも筆者の微妙な心の動きを捉えたり、複雑な比喩表現が多い文章からメッセージを読み取ったりと、かなり高度な読解力が求められます。
理科 昨年は開成高も筑駒高も物理の難問で受験生を苦戦させましたが、今年の物理は両校とも解きやすい問題でした。
大きなトピックは筑駒高の生物で、受験生が覚えているであろう知識とは異なる特殊な植物が扱われたこと。
問題文と図をきちんと読めば解答できますが、知識だけで答えると間違えます。このように、問題としっかり向き合っているかどうかを確かめるようなものを出す傾向が見られました。
瀧島(社会) 開成高の社会は受験者・合格者平均点がともに近年の中では最も低くなりました。その一因として地理・歴史の難化があります。
地理は多様な資料が用いられていたのが印象的でした。多くの情報を的確に整理すると同時に、時間がかかりそうなものは後回しにする冷静な対応も必要でした。
大問1の問1は多くの受験生にとって初見となる地形図番号の振り方に関するものでしたが、解答に時間を要するため、後回しにした方がよい問題だったといえます。
歴史の記号選択問題は、例年4択の問題が中心でしたが、今年度は11問中6問が6択でした。中でも三つの出来事を年代順に並べ替える問題は開成高以外でも出題が増えています。
筑駒高では毎年出されていた「全て選べ」という形式の問題がなくなり、二つまたは一つを選ぶようになりました。
高得点勝負という近年の傾向は今年も踏襲されましたが、豊富な知識と高い読解力・情報処理力が必要な、最高難度の入試問題であることには変わりありません。
開成高とは対照的に、資料はほとんど用いられていませんが、普段から資料を多用して学習していなければ対応できない問題が目立ちます。資料を用いずに、資料を用いた学習が習慣化できているかどうかが試されています。
開成・筑駒ともに正確な知識が定着していることは前提で、多様なバリエーションの問題形式に対応するため、状況に応じて知識を的確に運用する力を、問題演習などを通じて鍛えることが重要です。
青木(数学) 開成高の数学は、昨年よりは難化し、かなり高かった平均点が少し落ち着きました。
内容の変化はさほど見られませんが、大問3のヒストグラム・箱ひげ図を読み取る問題をやりづらく感じた受験生は少なくなかったと思います。こうした問題を平面図形や関数と同じくらい時間をかけて練習してきた受験生は多くなかったでしょう。最後の関数も図がなく、計算力が試される問題でした。
筑駒高は、内容の変化はさほどなく、難度も昨年と同程度。しかし、例年なら大問3は平面図形、大問4は空間図形ですが、今年はその順番が入れ替わり、先に出た空間図形の方が計算量が多かったため、その点に戸惑った受験生もいたでしょう。
2校とも、どうしたらうまく解けるかを常に考えながら解いてほしいです。また、解法もしっかり書くことを意識してください。
そのような姿勢を当たり前にしておくことで、解法も素早く引き出せるようになるし、計算ミスも減らしていくことができるでしょう。
慶應女子高
英語は難度が低下
数学は計算量が増えた印象
磯金(英語) 英語は昨年と比べると易しくなりました。
論理的思考力を問う大問1は、条件を読んで4組の飼い主と、犬と猫の名前をマッチングさせる問題でした。苦手な人は解きづらかったと思われます。
自由英作文は、今年は日常生活における自分のルーティンという比較的身近で書きやすいテーマでした。
早慶高の中では記述の割合が高い学校なので、書く練習をしっかりやっておくことが対策になります。
今野(国語) 国語は記述量が減りましたが、それでも50点程度は記述問題に割り振られていると推定できます。
例年の記述問題は比喩表現や感覚的表現を分かりやすく説明するものですが、今年はそうした「らしさ」は薄まった印象です。ただ、誰もが得点できるとは限らず、例えば古文の出来・不出来などによって一定の得点差がついたと思われます。
必要なのは第一に記述の練習です。知識の学習も継続的に行いましょう。
青木(数学) ここ数年、数学は大問2で問題の設定を把握しながら解き進めていく問題が出ていましたが、今年はそういった問題はなかったので、解きやすかったといえるでしょう。
その一方、計算量・作業量が若干増えたため、やや難しくなったと感じられたかもしれません。さまざまな分野から出題される学校なので、最も有効な対策は苦手分野を作らないことです。
早大学院・早大本庄学院・早実高
慶應志木高・慶應義塾高
早大本庄学院と早大学院で数学が難化
慶應志木では古文が出題されず
磯金(英語) 時事的な話題を扱うのが近年の早慶高の傾向です。
例えば、早大学院はデジタルデトックス、慶應志木高はSDGsの「今」について述べた説明文、慶應義塾高は性的少数者の兄を持つ少年の、兄や家族との関わり方を描いた物語文が出題されました。社会情勢に対するアンテナを敏感に張っておくことが大切です。
今野(国語) 国語は総じて学校ごとの傾向に準じていたので、受験生はいつも通りに取り組めたでしょう。
ただ、慶應志木高では3年連続で出ていた古文が出題されませんでした。
慶應義塾高は、得点できそうな問題とそうでない問題が比較的はっきりしている傾向が今年も変わらず、慶應女子高と同様、教科横断的な知識問題が出ました。
早大本庄学院は昨年よりさらに易化しました。
ただ、基本的に設問数が少ないので、得点すべき問題は確実に取らなければなりません。
特筆すべきは早大学院です。現代文の抜き出し問題が全11問と多く、その分だけ時間との勝負になったはずです。その一方で、近年定番化していた、不適切なものを選ぶ記号選択問題が減りました。
こうした設問は、文章と選択肢との照合作業に手間がかかるので苦戦する受験生が多いですが、

国語/今野 拓実
今年はその代わりに抜き出し問題が少し増えたということです。
今年の抜き出し問題のほとんどは解答の字数が指定されていたため、受験生は答えに確信が持ちやすかったでしょう。
青木(数学) 数学は早大本庄学院と早大学院が難化しました。
早大本庄学院は計算の手間も含め時間内に終わらないだろうと思われる設定でした。
早大学院も明らかに計算量が増えました。
都立日比谷高など 難関都県立高
英語は難度差が縮まり
数学の自校作成問題は易化
磯金(英語) 都立高の今年の英語は、昨年の西高のように飛び抜けて難しい学校がなく、むしろ日比谷高・西高とそれ以外の学校との差が少し縮まった印象です。
日比谷高の自由英作文は、今年は3コマイラストの状況をまず客観的に描写し、その後に「それについてどう思うか」という主観的意見を述べる、説明型と意見型のハイブリッドのような問題でした。
今野(国語) 都立高の国語で、自校作成問題と共通問題の違いは論説文の難度です。
自校作成問題の学校の特徴は文章の読み取りの負荷が高いことです。今年、その特徴が顕著だったのが、日比谷高と西高です。抽象度の高い難解な文章で、時間配分に苦しんだという受験生もいました。
青木(数学) 今年の自校作成問題の数学は全体的にやりやすく、特に日比谷高は、ここ数年ではかなり取り組みやすい問題でした。
また、自校作成問題は学校ごとの特徴が出始めていますが、それが定着しつつあるかなという印象もあります。
理科 都立高の理科の傾向は従来通りですが、今年は完答形式の出題が多く、平均点が下がったと思われます。
難度は変わりませんが、日比谷高なら9割を超える正答率が必要です。
県立高の中では神奈川の難度が少し高いです。
瀧島(社会) 都立高の社会の平均点は理科よりも低くなる傾向が3年ほど続いていて、受験生にとって社会は学習しにくい教科であることを感じさせます。

社会/瀧島 一裕
昨年は易化した印象でしたが、平均点が上昇したのは進学指導重点校のみでした。今年はさらに易しくなったように感じるので、都立高全体でも平均点が上昇すると予想されます。
難関校に共通する
出題トレンドと学習アドバイス
問題の見せ方や長文化など
共通テスト・新学習指導要領の影響も
青木(数学) 大学入試改革の影響だと思われますが、数学では問題文の設定に凝ったり、対話形式のやりとりの中でその内容を考えさせながら穴埋めで聞いたりするなど、問題文に工夫を加えて考えさせるような傾向が続いています。
その一方で、昨年に引き続き今年も、求められる計算力が上がっている印象があります。
磯金(英語) どの学校も長文を出題するので、読解力をつけることが重要です。
また、文章の題材に対する知見や経験があるほど読みやすくなるため、日常生活でアンテナを張り、多様な視点を持っていることも求められます。
近年のトレンドとして、個と社会とのつながりや、個が社会とどう関わっていくのかといった題材が多く出されています。
前述した筑駒高、慶應志木高、慶應義塾高の例が代表的ですが、それらの社会的なテーマに対し、自分がその立場になった場合に落とし込んで考えたことがあるかどうかが問われます。そうしたことを日本語で考えたことがあれば、英作文でも自分の考えをしっかり書けるでしょう。
今野(国語) 国語は難問・奇問系が本当に少なくなり、きちんと学習していれば努力が報われやすくなっています。
また、国公立の場合、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)や学習指導要領の影響を受けやすく、ここ数年は複数の資料や文章を扱う新傾向の問題を取り入れる動きがありました。
しかし、今年は共通テストが大きく変更されたので、高校入試におけるそうした影響はいったん止まったようです。一例を挙げると、今年は現代文における複数文章の読解が共通テストからなくなり、新たに実用的な文章が大問として追加されたため、早速その影響が出て、都立青山高では現代文の複合読解が姿を消しました。
理科 理科は共通テストの影響で、「読む」「データを活用する」「情報を処理する」が出てきています。
また、文章が長く、条件設定も細かいなど、とにかく問題文を読まないと解けないように意図して作問されています。条件などを読み飛ばしたりすると、大問ごと失点するケースもあるので要注意です。
都立高もやはり問題文は長くて読むのに時間がかかりますが、しっかり情報を処理できれば教科書に載っている知識に結び付きます。そこが私立や国立の難関高との相違点です。
瀧島(社会) 社会も、共通テストの形式に寄せた入試問題が目立つようになりました。
例えば、選択肢が五つあり、消去法で答えを出す場合、知識で消去できるものが二つ、資料を読み取って消去できるものが二つあるといった形式です。知識だけでなく文章読解や資料の解析も併用して解答を導き出すような問題形式がスタンダードになりつつあります。これにより、使用する資料の数や種類が豊富になっています。
また、成年年齢が18歳となったことで、15歳の受験生にとっては成年が目前になりました。そのため、「消費と契約」「選挙」「情報化社会」「SDGs」といった、社会の一員としてどのように生きていくかといったメッセージを強く打ち出した問題が目立つようになりました。
全教科で問われる問題文の読解力
丁寧な学習で早いうちから対策を
今野(国語) 国語の読解の問題文は、現代的な話題や、その時の社会状況を反映した話題が選ばれる傾向にあります。そこで、幅広いテーマに触れて読解の土台作りをしつつ、時事的な問題に敏感になることも大切。
漢字の読み書きをはじめ、文章の読み取りの基盤となる語彙の拡充にも努めましょう。
磯金(英語) 英語の読解力を上げるには中長期的な取り組みが必要なので、遅くとも中2の夏ごろから始めるべきです。
また、記述の比重が大きい学校は必ず講師の添削を受けましょう。添削を受け続けることで、文法面・内容面ともに大きく力を伸ばすことができます。
瀧島(社会) 各校の入試問題で良問が増えているため、自分が受験する学校だけでなく、あらゆる学校の過去問を解く意義は大きいです。
さらに、社会で起きている問題に関心を持ち、身近に捉えて考えることを日頃から実践するのも重要です。
理科 情報処理の能力を上げるには練習あるのみです。
読む能力をつけようと思ったら、問題と機械的に向き合うのではなく、普段からしっかり読んで解くほかありません。
青木(数学) いくら思考力が問われるようになったとはいえ、計算力がないと応用が利かないので、まず計算力をつけることが大切。それには途中式をしっかり書くようにしましょう。
また、間違えた時はその原因を把握し、次に活かすことです。あるべき図がない問題が出た場合も、

数学/
『高校への数学』執筆者
青木 茂樹
普段から自分で図をかく癖をつけている受験生は対応できます。
そうした当たり前のことを、中1・2からやっておくことが大事です。知識やテクニカルな公式を覚えていても、それがどんなしくみで成り立っているかを理解していないとただの暗記であり、適切に活用することはできません。
SAPIXでは「理解」を大切にした授業を行っています。授業をしっかり受けてください。