SAPIX中学部からのメッセージ

一口に「高校受験」といっても、志望校のレベルや地域などによって心構えと学習スタイルは変わります。SAPIX中学部本部長代行 吉永英樹が、首都圏エリアの高校受験の魅力、難関校に挑戦するからこそ得られる経験と力、そしてSAPIXの学習メソッドをお伝えします(取材:情報誌『SQUARE』編集部)。

吉永 英樹(よしなが ひでき)
2000年より現在まで、SAPIX中学部で数学科講師として授業を担当。複数の校舎責任者を経て現職。二児の父でもある

首都圏エリアは国私立の附属校も充実 幅広い選択肢から受験が可能

――まず、首都圏エリアの高校受験の魅力を教えてください。

吉 永 受験できる学校の選択肢が多いことが魅力です。公立から私立、国立大附属まで数多くあり、自分の実力に相応と思われる学校、チャレンジ校、余裕を持って合格できそうな学校など、多種多様な高校を複数選べます。

日本全国で見ると、1人当たりの高校の受験校数は平均2校ほどで、首都圏以外だと、受験するのは公立校と私立校を1校ずつというエリアも珍しくありません。

――首都圏難関校の受験者は平均して何校くらい受けるのでしょうか。

吉 永 平均して5.7校、多い生徒で10校くらい出願します。また、難関私立大附属校の選択肢が豊富なのも、首都圏エリアの特長です。その他のエリアの場合、早慶やMARCHを目指そうと思っても、その機会のほとんどは大学受験にしかありません。

一方、首都圏エリアの男子で見ると、私立最難関の早慶附属・系属校だけで、募集定員は合わせて1000人に上るほどです。このように、挑戦できるレベルや実現できる進路の幅が広いことが、首都圏エリアの高校受験の大きな魅力です。

中1の段階では志望校が固まっていない生徒が多くいますが、その頃からこうしたメリットを認識して準備をし、可能性を広げていくことをお勧めします。

中3で選択肢の豊富さに気付いて、いざ行きたい学校が見つかっても、それまでの準備不足で大変な苦労をする……ということもあるからです。お子さまが低学年のうちに、まずは保護者の方がこの選択肢の多さを伝えてあげるのも良いでしょう。

難関高校受験で培った力は 大学受験やその後にも役立つ

――「難関校」を目指した生徒だからこそ、得られる力や経験というものはありますか。

吉 永 難関校の入試問題には、ただ知識を覚えただけでは太刀打ちできません。その場で問題を観察して意図をつかみ、解決法を考え抜いて、答えを導き出す力が問われます。

そうした問題に対応するための「考える力」が、学習を進める中で培われます。また、難関校入試の出題範囲は広く、しかも深く問われる分、平均的な高校入試よりも時間をかけて学習に取り組む必要があります。壁にぶつかる頻度も多いでしょう。

試行錯誤を重ね、間違いや失敗を繰り返しながら、課題を少しずつ解決していく姿勢が求められます。難関校を受験するからこそ、こうした試行錯誤による課題解決を数多く経験できるのです。

私は「七転び八起きするつもりで取り組もう」と話すことがあります。中学生の学力は、数多くの失敗と少しの成功の過程で、最も成長すると考えているからです。

試行錯誤を多く積み重ねることで、思考力や課題解決力がどんどん養われていくのです。なお、学校での教科書の学びは非常に重要なので、学校の授業も大切にしてください。難関校受験のための勉強はそれを踏まえた上での話です。

――試行錯誤の経験が生かされたエピソードはありますか。

吉 永 私が教えた生徒に、高校受験で進学校に進み、大学受験で第一志望の東京大学理科二類に現役合格した生徒がいます。

高校受験で難関校の手ごわい問題と格闘し、まさに試行錯誤を繰り返しながら頑張り続けていました。そして、高校進学後も勉強で試行錯誤を続けた結果、問題を解くのに有用な法則を自ら見いだしたのです。

その生徒は「100問の問題を解き、問題の共通点を見いだすことで、10種類の問題になることに気付いた」と言っていました。

そして、「勉強が怖くなくなった」とも振り返っていました。こうした試行錯誤による課題解決のこつを会得した生徒は、大学受験やその先でぶつかる課題も問題なくクリアしていくのだと思います。

将来、仕事でどんな課題が降りかかっても、「自分が身に付けたいくつかの解決法のうち、どれかを試せば解決できるだろう」と考え、着実に成果を積み上げていくのではないでしょうか。

難関校を目指す過程で培った力は、大学受験や資格試験、さらに社会生活を送る上で役立つことがあるでしょう。もし、ご自宅でお子さまの空き時間が多いようでしたら、難関校を目指して勉強を始めてみるのも、お子さまの成長を考える上での一つの選択肢かもしれません。

難関校を目指して受験勉強に励み 試行錯誤を重ねて成長する

――難関校を目指す醍醐味は試行錯誤の質と回数にこそありそうですね。

吉 永 はい。難関校の受験には「勉強が大変では?」「苦しそう」などというマイナスのイメージが先行しがちです。

しかし、SAPIX生からは「いろいろなことを知ることができてうれしい」「難問を解いた時に達成感があった」など、むしろプラスの声をよく聞きます。

もちろん、つらいこともあるとは思いますが、試行錯誤を通して目標に向けて頑張る楽しさ、考えて課題を解決するよろこびを実感できる点に醍醐味があるのではないでしょうか。

――これまでの話からすると、試行回数が多いであろう中学受験経験者は、高校受験で結果を出しやすいのでしょうか。

吉 永 はい。中学受験の勉強で試行錯誤に慣れているからか、高校受験でも学習がスムーズに進むケースが多いですね。

勉強そのものについても、中学受験では小学校範囲の考え方で進めていたのに対し、高校受験では中学校範囲の考え方も加えて取り組めるようになります。

新たな発見をすることで学習に勢いがつき、見事中学受験のリベンジを果たした生徒も多くいます。ノートを取ることについても、中学受験経験者は授業でポイントとなる瞬間に集中力を高め、効率的に進められるようです。

授業中に、「自分で考えて、答えを導き出してみよう」と講師から言われた時には、「何とかひねり出そう」と積極的にトライしている姿もよく見られます。

――思考錯誤は勉強以外でも経験できるのでしょうか。

吉 永 部活や趣味でも真剣に取り組めば経験できます。例えばスポーツに没頭している生徒は、その中で失敗と挑戦のサイクルを回すことで、粘り強く取り組む力を伸ばせます。

ただ、高校受験は一般的な公立の中学生であれば、基本的に避けられないものなので、せっかくなら勉強でも試行錯誤を重ねることをお勧めします。

――試行錯誤におけるポイントはありますか。

吉 永 当たり前のようですが、失敗の後によく分析して「再トライすること」です。失敗しても気にせず放置したり、逆に気持ちが落ち込んだりして、再トライしない生徒はもったいないことをしています。

たとえ最初のテストで思わしい結果が出なくても、そのままにするのではなく、「次に生かそう」という発想につなげてほしいですね。

1回1冊のテキストで「考える力」を徹底して育む 明確かつ丁寧に試行錯誤をサポート

――難関校を目指す方のために、SAPIXができるのはどんなことでしょうか。

吉 永 まずは合格する力を育成することです。難関校入試の対策の要は「考える力」にあります。SAPIXの授業スタイルやテキストには「考える」ためのノウハウが詰まっています。

例えば、多くの塾では1年分の分厚いテキストを最初に1冊配り、そのテキストに沿って少しずつ授業を進めていきます。

しかしSAPIXでは、テキストは授業のたびに1冊配付し、あえて予習ができないようにしています。これは予備知識なしにその場で解き方を考えてもらうためです。授業中に十分に考え抜く経験を積むことができるようなテキストのつくりにしています。

この授業スタイルを貫くには教材を自社開発することも必要です。それが可能な塾は限られているので、この授業スタイルは他塾にはほとんど見られません。

SAPIXでは、1教科専任の講師がこうしたテキストを前提に構成を組み立て、生徒に考えてもらう時間を確保して授業を展開します。生徒が解けない問題があれば、「こう考えてみよう」などと指導して、解き直してもらっています。

講師も、いかに授業で考える材料や時間を提供できるかにこだわっています。

授業には生徒が受け身になってしまうイメージもありますが、SAPIXでは「どうしたら能動的に取り組めるか」「生徒が前のめりになる内容はどうすればつくれるか」を常に考えています。

学年によっても提供する材料が変わるので、教える側も工夫できるよう、講師の研修も充実させています。

――1授業に1冊というシンプルさは大きな魅力ですね。受験直前期に振り返る時にも、「単元ごとに分かれているから便利」という声を生徒からよく聞きます。

吉 永 はい。単元・目的別の補強がしやすく、知識が明確に身に付くという点でもメリットは大きいです。また、SAPIXの進度は学校より速いといわれますが、その表現は適切ではありません。

カリキュラムを独自に構成することで、学校だと3年かかるところを、2年で終われるということなのです。

例えば数学であれば、正負の数、文字式、方程式……と学習した後に、連立方程式まで続けて学ぶ方が効率が良いです。学校では連立方程式を中2で学ぶため、進度に差が生じます。

学校での学びは大切なので、当然しっかり勉強してほしいですが、知識を定着させる方法としては、SAPIXのメソッドをうまく取り込んで活用していただければと考えています。

――教科指導だけでなく、生徒を包括的にフォローするようなサービスはありますか。

吉 永 これまで蓄積してきた難関校の合格者のデータや偏差値、試験の点数など、数字に基づいたアドバイスをしています。

例えば、慶應女子高志望者のうち、「数学は苦手だが、英語はとても得意」という教科バランスの生徒は合格している事例が多いので、こうした蓄積を踏まえてアドバイスしています。

一方、このバランスが逆の場合は、非常に厳しい受験になることが多いため、それを曖昧な言い方ではなく、はっきり伝えています。

また、成績を見れば何が足りないかが分かるので、褒めるべきは褒め、駄目なものは駄目だとしっかり話し、生徒一人一人に合った学習法を提案しています。

講師は生徒の特性を把握し、ご家庭の方針や第一志望校、得意・不得意なども全て頭に入れて、丁寧にフォローしています。こうした明確さ、きめの細やかさもSAPIXの強みです。

――難関校を目指す生徒へ、SAPIXからのメッセージをお願いします。

吉 永 失敗した時にへこたれてしまうのが前に進めない最も大きな要因です。失敗は再トライのチャンスであり、落ち込んでいる場合ではありません。前向きな試行錯誤のサイクルをいかにして作るかを、私たちと一緒に考えましょう。

また、保護者の方や塾からサポートを受けながらも、生徒の皆さんは「自立して自分で全部やっている」くらいの意識を持って日々の学習に取り組むことが重要です。

高校受験は、自分自身で進めていく意識を持つ必要がある受験だからです。そして、学習や受験に関して悩んだときは、遠慮なくSAPIXに相談してください。私たちは保護者の方とも連携し、皆さんの受験をしっかりサポートしていきます。

私たちの役割

保護者の方は、お子さまの生活、健康、将来など多岐にわたって気を回さなければなりません。

私自身の経験からも、日々本当に大変だろうと感じています。普段からお子さまと仲が良い保護者の方であっても、勉強に関しては「子どもが言うことを聞いてくれない」という話もよく耳にします。

SAPIXはご家庭から学習に関して多くのことを任せていただいています。勉強に関連するお子さまとのコミュニケーションはSAPIXが行います。

勉強について保護者の言うことは素直に聞けないお子さまも、受験のプロである講師からの注意であれば耳を傾けるケースも多いです。

SAPIXでは保護者の方からの情報やご意見も尊重してしっかり受け止め、生徒指導に反映するというスタンスを大切にしています。