【副教科長座談会】都立進学指導重点校 自校作成問題の難しさと対策【テーマ別】
インタビュー入試分析
東京都教育委員会は2023年現在、都立日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川の7校を「進学指導重点校」に指定しています。進学指導重点校は進学実績の向上を明確にうたい、教員の配置や予算面で優遇される一方、その実績が厳密に評価・公表されます。
進学指導重点校は、都立校受検生に一律に課す共通の学力検査問題(以下、共通問題)では測るのが難しい、より高度な思考力や表現力を問うため、各校が独自に英語(リスニングテストをのぞく)・数学・国語の問題(以下、自校作成問題)を作成し、学力検査を実施しています。ここでは自校作成問題の特徴や対策などを6テーマに分けて、SAPIX中学部の英語・数学・国語科の副教科長が語り合いました。
- 以下、本記事における自校作成問題は、東京都の進学指導重点校が作成する学力検査問題を指します。
目次
【テーマ1】自校作成問題ならではの難しさとは?
若松(英語) 抽象的なものを具体化する必要がある点です。共通問題の長文では質問文に対する答えがそのまま本文中にあることが多く、解答するのはそれほど難しくありません。一方、自校作成問題の長文では文章を読んだ上で、内容をイメージしないと解答にたどり着くことが難しいケースが多くあります。また、フレーズの言い換えや、計算などの一手間を要する問題が多いことも難しさの原因だと思います。
長文の語数は共通問題と自校作成問題との間にそれほど大きな差はありません。今年の入試では、共通問題の長文の総語数は約2070語でした。それに対し、多いと言われている西高で約2940語、日比谷高で約2590語、青山高で約2350語です。
自校作成問題の長文では、理科系の複雑な内容を扱ったものが多く出されます。例えば国立高などでは例年、理科系を題材とした長文が出題されますが、専門的な内容のため、日本語で読んだとしても理解するのは容易ではありません。理科のテキストを英語で読んでいるような感覚に近いと思います。
髙橋(数学) 共通問題は大問5題、自校作成問題は大問4題から成り、小問数も自校作成問題の方が少ないです。
出題分野こそ共通する部分が多いのですが、難度には大きな差があります。共通問題は基本的な内容が中心で、取りこぼしをなくせば高得点を狙うことも難しくないでしょう。応用問題のテーマも毎年ある程度定まっているため、問題の難度の見極めも比較的しやすいです。一方、自校作成問題は出題数が少ない分、1問1問の難度が高いです。計算問題は一工夫しないと時間がかかり、計算問題以外でも解答までのステップを多く求められるため、どの問題に注力するのかの見極めが大事です。
また、例年、共通問題・自校作成問題ともに作図と証明の問題が出ます。共通問題は作図が1題、証明が2題で、配点はおよそ20点。パターンが決まっているので、練習を積めば対応できるレベルです。
一方の自校作成問題は作図が1題、証明が1題、解法を記述する問題が2題で、配点はおよそ35点。記述が重視されることに加え、練習を積んだとしても、どのように結論を導けばよいか迷う問題や、一見して難度がつかめない問題が出されます。例えば、共通問題の証明では与えられた図形の合同や相似を示せばよいのに対して、自校作成問題では結論を導くためにまずどの図形の合同や相似を示すべきかを自分で考える、といったことが求められるのです。
総合すると、練習を積めば対応しやすい問題が多い共通問題に対し、自校作成問題はどうアプローチするか、どう工夫するかが鍵となり、さまざまな問題を解いた経験がないと対応しづらいでしょう。
渡邊(国語) 進学指導重点校の入試問題は、以下の5題構成で統一されています。
- 漢字の読み取り
- 漢字の書き取り
- 小説文の読解
- 論説文の読解
- 現古融合文の読解
共通問題と自校作成問題との最大の違いは文章の難度です。共通問題では中学生にも読みやすい内容の文章が出されますが、自校作成問題では高校生や大人でも読み取りに苦労するような題材が選ばれる傾向がある上、文章自体も長く、抽象度の高いものが出題されます。また、一部の進学指導重点校では高難度の記述問題が出されることもあります。
漢字の難度が高いことも特徴です。漢検のレベルでいうと、共通問題が4~3級くらいであるのに対して、自校作成問題では2級レベルのものも出されます。手持ちの語彙が豊かでないと対応は厳しく、時に大人が見ても難しいレベルの熟語が問われます。
【テーマ2】学校ごとの違いや特徴は?
若松(英語) 例えば、日比谷高と西高を比べると、それぞれの特徴が端的に表れていると思います。
日比谷高は語彙や文法知識よりも、記述力や論理性を重視している傾向があるようです。今年の英作文は文化祭で行う演劇の内容について、与えられた資料から根拠を見いだし、自分の意見を述べるというものでした。この英作文では単に自分の意見だけでなく、資料から情報を読み取り、それを基に客観的な意見を述べることのできる力が求められています。
西高の特徴は試験時間がかなりタイトであることです。他の進学指導重点校が長文は2題のところ、同校では3題出題されていて、速読・速解が求められます。長文中で語彙や文法知識を深く問う問題もあります。
髙橋(数学) 出題分野はどの学校もおおむね固定されていて、問題は以下の大問4題から成ります。
- 大問1:計算や作図、確率などの小問集合
- 大問2:関数(二次関数が頻出)
- 大問3:平面図形(円を題材とする問題が頻出)
- 大問4:空間図形
このように形式の大枠が決まっているという点では対策がしやすいでしょう。
例外として、西高では大問4の空間図形に代えて、整数や文章題などを題材とした、その場で状況を把握して解く独特の問題が出されます。西高が発表している出題の狙いによると、題意を正確に把握する能力や論理的に処理・表現する能力を見るとあり、受検生にとってはやりづらい題材ではあるでしょう。しかし、例年の正答率を見ると、小問3問のうち2問は比較的高く、こうした問題にも対応できる生徒を求めているという印象です。
また、先ほど共通問題との違いでも触れたとおり、記述問題は自校作成問題の大きな特徴です。証明もしくは途中式を記述する問題が大問2・3・4で1問ずつ出され、配点は1問10点です。この配点については、戸山高が1問10点から12点に上げた年度や3問とも12点に設定した年度があります。立川高も1問11点に設定した年度があり、学校や年度によって変化はありますが、記述を重視する傾向は進学指導重点校全体で共通しています。
近年は問題に高校ごとのカラーが徐々に表れてきている印象を受けます。先の西高の大問4、国立高の難度の高い空間図形、青山高の「受検生が解答したい問題を選択肢から選ぶ」という形式などは、出題が数年続いていて、各校がどんな生徒に入学してほしいと考えているかを感じるポイントです。
渡邊(国語) 一般的な高校入試では、現代文の出題は1つか2つですが、進学指導重点校では3つを読解することが必要で、総じてスピード勝負になる傾向があります。文章読解の一環として、条件作文が出される点も進学指導重点校の特徴です(一部例外あり)。
また、記号選択問題の多さという点も指摘できると思います。例えば今年の日比谷高では漢字の20点分を除いた80点のうち、実に60点分が記号選択問題でした。選択肢も長文で、一つ一つの選択肢がかなり細部まで作り込まれているため、国私立の難関校と比較しても、高度な分析力が要求されるのは間違いありません。
【テーマ3】大学入試改革からの影響は?
渡邊(国語) 大学入学共通テスト(以下、共通テスト)では複数の文章や資料を複合的に読み解く力が問われます。この流れを受けて、例えば近年の青山高や立川高では、図表やイラストが入った文章を意図的に選んでいたり、1つの大問の中で論説文を2種類出題したりするなど、明確に大学受験を意識した構成です。
従来にはなかった新しいタイプの設問も目にするようになってきているので、今後の動向に注意を払う必要があります。例えば、理科系の文章が出ることもあれば、哲学など受験生には少しなじみが薄い文章が扱われることもあります。その年にどのような文章が選ばれたかによって平均点も変動します。
髙橋(数学) 数学では直接影響を受けている問題は見られません。しかし、先ほど例に挙げた、青山高の「自分で解く問題を選択肢から選ぶ」という目新しい形式など、問い方を工夫する出題が増えている印象があります。また、証明問題でも、単に図形の合同や相似を示すものだけではなく、与えられた式が成り立つことを示すといった、考えるステップをより多く要する出題が見られ、国私立校の問題を彷彿とさせます。記述を重視する傾向は、共通テストにつながるようにも思います。大学入試改革によって風向きが変わったというよりは、以前からあった傾向が強まったという見方をしています。
若松(英語) 英語も大きな影響を感じる点はありませんが、大量の英文や複数の情報を処理しなければならないなど、似ている点は多いです。また、出来事を時系列順に並べる問題などは今後、進学指導重点校でも出される可能性があると思います。
【テーマ4】他校との類似点・相違点は?
渡邊(国語) 先に自校作成問題の記号選択問題の多さを指摘しました。そこで、例えば同様に記号選択問題が多く出される学芸大附高の過去問を演習することは、進学指導重点校対策としても効果的であると考えられます。思考力も鍛えられるので、記述問題などで他の受検生に差をつけることもできます。他にも記述の難度が高い開成高、筑駒高、慶應女子高などの過去問演習を積んでいれば、その経験が生きてくるといえるでしょう。
髙橋(数学) 自校作成問題の大問2〜4の関数、平面図形、空間図形は、テーマとしては受験数学において一般的なものですが、難度は年度によって変化し、経験の差が表れます。
早慶高や国立大附属校など、他の難関校への対策で得た経験は、自校作成問題を解く際にも大きく生かされるでしょう。
なお、確率など大問1の小問集合で出されるのは、教科書範囲の基本的な問題が中心ですので、他の難関校とは傾向が異なります。分野によって求められるレベルが変わるので、大問1は基礎を固めつつ、大問2以降は他の難関校の問題も含めて手広く経験を積む、といった対策が有効になるでしょう。
また、進学指導重点校は出題分野が定まっているので、進学指導重点校を第一志望とする受検生であれば、その分野の典型問題を徹底して練習するのが良いでしょう。国私立校にしばしば見られる、対応力を求められる初見の問題とは傾向が異なります。進学指導重点校特有の出題としては作図・証明がありますが、こちらは国立大附属校までの受験が終わった後、SAPIXの補助教材や添削指導を通して対策するのが効率的でしょう。
若松(英語) 早慶高の長文の長さや求められる語彙の壁を乗り越えておくことが大きな目安となります。自校作成問題は長文中の単語が簡単で、難しい単語には注釈がありますので、単語の勉強はしなくてもよいと考えがちです。しかし、自校作成問題では非常に長い英文を読まなければならず、注釈を見ている時間がないため、結局語彙が必要になってきます。
慶應女子高では記述や理系の長文が出題されます。その点は進学指導重点校に通じるところがあると思います。それだけに慶應女子高の英語の過去問を解いておくことは進学指導重点校対策として有効だと思います。
【テーマ5】進学指導重点校の志望者がSAPIXに通うメリットは?
渡邊(国語) 自校作成問題の文章は全体的に長大で、難度も高いため、試験時間の大部分が「読む」ことに費やされます。現代文を3つも出題するのは進学指導重点校のみで、国語が相当得意な中学生でも、夏休みごろの時点ではまだ最後まで解き終えるのが難しいことがほとんどです。
一般的な高校入試の論説文の文字数は1題当たり3000字前後ですが、例えば今年の西高は6000字超でした。SAPIXでは長めの文章も含めて、授業内でさまざまなタイプの文章に触れていくため、「このような文章だと結論はこうなる」といった論理パターンの蓄積ができるというメリットがあり、対応力が自然と鍛えられていきます。
とはいえ、読むスピードそのものを短期間で引き上げるのは難しいので、解き方を効率化して時間を短縮していくことになります。SAPIXではどの学校の問題も一定の手順で解くように指導しています。さらにテキストには解説も細かく付けていますので、答えが合っているかどうかだけでなく、答えに至る考え方は適正だったのか、無駄がなかったのかというところまで確認することができるようになっています。
また、自校作成問題の漢字の難度は高校入試の中でもトップクラスですが、過度に心配する必要はありません。取れるものを確実に取れば問題ないため、SAPIXのテキストと副教材の学習で十分です。漢字の勉強では必ず手で書いて覚え、意味が分からないときには調べるといった丁寧な学習が求められます。
なお、中3では古文や文学史の学習に力を入れましょう。大問5の現古融合文では文学史、人物、背景などの古典作品に関する予備知識があると非常に有利です。いずれもSAPIXのテキストと副教材などで十分な対策をすることが可能です。
髙橋(数学) 1問1問の難度が高い自校作成問題を解くために最も大切なのは、問題にどうアプローチするかです。多くの問題は複数のアプローチが考えられ、講師の間でもしばしば議論になります。SAPIXでは国私立難関校の問題も使いながら、講師と生徒との活発なやりとりの中で議論を深める授業を行っています。独りで考えているだけではたどり着けないようなさまざまな視点を学び、多くの引き出しを作ることができるというのは大きなメリットだと考えます。
なお、暗記した定理や公式に当てはめるだけというのは推奨しません。成り立ちから理解することが重要です。定理一つ取っても、SAPIXの授業では証明から扱っており、理由に立ち戻るという経験を通して知識を身に付けることが重要だと考えています。
若松(英語) 志望校だけでなく、幅広くさまざまな学校の問題に触れるため、いろいろな視点から考える経験を積めることがSAPIXに通うメリットです。どんな問題が出されても対応できる力や柔軟性が身に付くはずです。
中3の前期ではいろいろな形式の問題に触れていきます。進学指導重点校を受検するのだからその出題形式だけに取り組みたいと思う気持ちも分かりますが、さまざまな形式の長文問題や記述問題などを解くことを通して視野を広げられますし、経験値も上がっていきます。そして、志望校に特化したSS(サンデー・サピックス)特訓では実力を付けるだけでなく、進学指導重点校の受検に必要な「問題を解くこつ」をお伝えしています。
【テーマ6】進学指導重点校合格のために必要なことは?
若松(英語) 丁寧さだと思います。授業中もそうですが、まず求められる情報や細かい点に気を付けられるか。そして、論理的であるかどうかなどにも留意する必要があります。英作文でも、文法やスペリングのミスは失点につながります。こういったミスを意識するよう、授業では毎回指導しています。
英単語を覚えるときは工夫も必要です。単語をただ眺めていてもなかなか頭に入ってこないので、テスト形式で自分が覚えているかをチェックすることが大切です。その上で、覚えていなかった単語を声に出して読むなど、絞り込んでいくイメージで学習しましょう。どうしても覚えられない単語は辞書で調べたり、語源を調べたりすることで意外な発見につながり、楽しみながら覚えられると思います。
髙橋(数学) まずは計算力を身に付けることです。スピードも大切ですが、正確さが最も重要です。自校作成問題は1問の配点が大きいため、計算ミスによる失点は避けたいところです。一度解いたことのある問題では絶対にミスをしない計算力や、見直しでミスに気付くことができる注意力が大切でしょう。
前半で触れましたが、記述力も重要です。SAPIXの教材は右ページが余白になっていますので、解法を整理する力を低学年のうちから少しずつ培っておきましょう。図や途中式を丁寧に書くようにして、中3では解法の整理を意識して学習を進めると良いでしょう。普段から図や途中式を意識して書く習慣があると、自然と頭も整理され、中3での記述の作成もスムーズになりやすいのです。
過去問に取り組み始める時期は11~12月が多いと思われます。進学指導重点校が第一志望でも、国私立校を併願するケースが多いため、そちらから解き始めることになるでしょう。過去問はあくまでも傾向や時間配分をつかむためのものであり、点数で一喜一憂するのは意味がない、ということは強調して指導しています。時間配分の反省点を次に生かし、苦手な単元が見えてきたときには、過去問ではなくSAPIXのテキストに戻って対策していく、という活用法が良いでしょう。このように、過去問だけを解けば受かるとは限らないことに注意が必要です。なお、進学指導重点校の作図や証明をはじめ、記述問題を解いたら必ず添削指導を受けましょう。
国語(渡邊) 過去問は実力が完成してくる11月末から12月ごろのタイミングでスタートすると良いでしょう。
国私立の併願校の入試の方が先なので、数学同様、進学指導重点校の過去問演習を急ぎすぎる必要はありません。特有の形式に適応していく必要はありますが、SAPIXで勉強しておけば土台はできているため、例えば国立大附属校の入試が終わった日の午後から始めても間に合います。
その際、進学指導重点校の入試は時間との勝負になるため、きちんと時間を計って演習に取り組むことが必須です。時間切れによる大量失点はよくある失敗の一つだからです。国語がかなり得意な生徒でも、時間内に解き切れないというケースはままありますので、追い込まれた場合に何を優先するのかという判断を冷静に下せるように訓練しておく必要があります。人によって得点しやすい分野は異なるので、講師に相談し、話し合いながら特性に合わせた得点戦略を立てておくことも大切です。
SAPIXでは校舎の講師一人一人がパートナーとして受験生を支えるので、記述や作文などは授業担当の講師に添削依頼をしたり、分からないところは必ず質問したりしましょう。過去問は数をこなしても解きっ放しでは意味がないため、一つ一つ見直しをしてから次のステップに進むようにしてください。
SAPIXでは授業とテキストに全てが詰まっています。SAPIX生は1回1回の授業を大切にしましょう。
【ご案内】都立進学指導重点校を目指す方へ
公開模試
SAPIXの公開模試は、最新の入試動向を反映し、徹底した問題分析のもとに作られたオリジナル模試。知識量や思考力を測るのに最適です。難関校に合格した数多くの卒業生のデータに基づき、母集団の変動に左右されない精度の高い志望校合格力判定と、合格に向けた学習指針を示します。
都立日比谷・西高校 入試予想問題集
「都立日比谷・西高校 入試予想問題集」は、都立最難関校である日比谷・西高の入試傾向を徹底分析し、本番と全く同じ形式で演習できるオリジナル予想問題(英・数・国3回分)を収録した実戦問題集です(問題集の詳細はこちら)。